鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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潜入捜査。

 冬休みは割と長く、1月8日まで冬休みである。だが、文香はそうはいかない。大学の冬休みは高校より短いからだ。その分、春休みが長いんだけどね。で、その期間を利用して、俺は三人の諜報部員を招集した。

 場所はスタバ。一人でスマホをいじってると、速水さんと三村さんと島村さんが現れた。俺の前の席に座る三人に、俺は言った。

 

「………来たな、我が同士よ」

「誰が同士よ。あんたぶっ殺すわよ?」

「……そうだよ、鷹宮くん。私達、こう見えて忙しいんだけど……」

「あ、あははっ……」

「………ごめんなさい。わざわざ来ていただいてありがとうございます……」

 

 謝ると、三人は呆れたように呟いた。

 

「2人には折り入って頼みがある。いや、本当にマジの頼み」

「何?聞くだけ聞いてあげる」

「ああ、実は成人式の日に……」

「なるほど。成人式の日に文香が大学の人達と飲みに行くらしいから、その男メンバーを調べたいってわけね?」

「なんで分かるの⁉︎」

「………あんたの事は文香の次によくわかってるつもりよ」

 

 えっ、それって………。

 

「ごめん……。俺、二股する気はないから……速水さんの気持ちには答えられない……」

「帰るわね」

「嘘ですごめんなさい!」

「ったく……あんたは………」

 

 ほんの冗談のつもりだったのに………。

 すると、さっきまで苦笑いを浮かべていた三村さんが質問した。

 

「でも……調べるってどういう風に?」

「具体的には、大学を見学してる定で動き回る。まぁ、この時期にオープンキャンパスはやってないからな。そこで、このメンバーを二つに分ける」

「ほ、本格的ですね……」

 

 島村さんが引き気味に呟いても気にせずに続けた。

 

「三村、島村班は演劇部を見て回ってもらう。標的は演劇部男子。声を掛けても猫を被られるのが見えてるから、なるべく後ろからついて行って自然な様子を観察して欲しい。くれぐれも正体はバレないようにして欲しい」

「うん。分かったけど……」

「演劇部の人なんてどの人だか………」

「大丈夫。大体はピックアップしてあるから」

 

 この前の文化祭の時に出て来た男達の顔を覚えていたため、その大学の演劇部のホームページを調べ、そこから顔を割り出してプリントアウトした画像をL○NEで二人に送った。

 

「そいつらが標的」

「………ち、千秋くん本気出し過ぎです……」

「島村さん、彼女のためなら本気を出せるのが彼氏というものです」

「喧嘩するたびに私に泣きついてくるのは誰かしらね」

 

 はい、私です。すみませんでした。

 すると、島村さんが不安そうな顔で聞いてきた。

 

「でも、その……大学に勝手に入っても良いのでしょうか………?」

「コナンの映画でも普通に入ってたし平気でしょ」

 

 多分。

 

「………わかりました。頑張ってみますね」

「うん。鷹宮くんの頼みだしねっ」

 

 島村さんと三村さんは微笑みながら承諾してくれた。本当にこの人達天使だなぁ。可愛いし優しいとか、文香と付き合ってなかったら惚れてたまである。

 

「私はどうすれば良いの?」

 

 速水さんが口を挟んで来た。

 

「速水さんは俺と文香と合流してほしい」

「へっ?文香と合流しちゃうの?」

「まぁ、疚しいところはない事を表すためにな」

 

 本当は、耳が異様に良い文香から隠れながら、大学探索は無理だからだ。俺と一緒に授業を受けられるのは、ある意味では文香も喜ぶと思うしね。

 

「………それ、私いるの?邪魔じゃないかしら?」

「いるよ。速水さんがいないと、俺と文香の関係がバレかねないじゃん」

「でも、私がいても同じじゃないかしら?」

「変装すれば平気でしょ。文香も基本は変装してるだろうし」

「もしバレたら?」

「その時には、俺が速水さんの弟になることにしました」

「はっ?」

 

 割とマジで理解してないって声だ。まぁ、そうなるよね。

 

「文香にはあらかじめ『学校見学したい』って伝えておいて、設定とかも伝えておく。で、姉が学校見学に行きたいって言うから、弟も付いて行きたいって言ったことにする」

「……待ちなさい。私と貴方が姉弟は無理があるでしょう?」

「どう思う?島村さん、三村さん」

 

 聞くと、二人はジッと俺と速水さんを見比べた。

 

「………無理では無さそう」

「ね。奏さん、カッコ良いもんね」

「えっ、そ、そう、かしら……?」

 

 うんうん。明らかにこいつ高校生には見えねーからな。最大だと24歳に見えなくも無……。

 

「………今、失礼なこと考えてるでしょ」

「考えてないから。ごめんなさい」

「考えてないのになんで謝るのよ」

 

 うん、怒られる前に話をそらそう。三人にとって一番重要な話をすれば逸れるだろ。

 

「三人にはもちろん、報酬を出す」

 

 言いながら俺はスマホをスワイプし、画面を見せた。コレクトファイルの☆13武器が映されている。

 

「こいつの入手を手伝」

「「「引き受けましょう」」」

 

 よし、作戦開始だ。

 

 ×××

 

 早速、文香の大学に来た。島村さんと三村さんには随時、お互いの居場所を報告する事にしてある。

 速水さんと二人で文香と合流した。文香には学校を見学したいって言ったら心良く引き受けてくれた。結婚しよう。

 門の前だと島村さんや三村さんと一緒に居られる所を見られてしまうので、何処の学校にもあるでだろう図書室にした。だが……。

 

「………速っ……姉ちゃん、ここどこ?」

「………あんた分かってて歩いてたんじゃないの?」

 

 迷った。もう待ち合わせ時間を5分過ぎている。このままじゃ昼休み終わっちゃうよ。まぁ、文香は授業ないらしいし平気だと思うけど。

 

「姉ちゃん、どうしよう」

「一々、お姉ちゃんって呼ばなくて良いから」

「じゃあ、奏?」

「………弟(役)に呼び捨てられるのはムカつく」

「……奏お姉ちゃん」

「………少し可愛くてムカつく」

「どうすりゃ良いんだよ」

「図書室を探しなさい」

「呼び方の話じゃねぇのかよ………」

 

 歩き回ってると、スマホが震えた。文香からだ。

 

 ふみふみ『今どこですか?』

 

 ああ……そりゃ来るよね。スワイプしてトーク画面を開き、電話をかけた。

 

「もしもし、ふみっ……文香お姉ちゃん?」

『お姉ちゃんっ⁉︎……あ、そ、そっか。奏さんの弟設定、でしたね……。……お姉ちゃん、えへへ』

 

 高1の弟が姉の友達に姉ちゃんつけるのおかしいかな。コナンじゃないんだから。

 

「いや、鷺沢さんの方が自然かな」

『…………』

「あんた………」

「え、何?」

「なんでもないわ。早く道を教えなさい。昼休み終わってしまうわ」

「はいはい。鷺沢さん?迷っちゃったんだけど……図書室ってどこですか?」

『…………せめて文香さんにして下さい。なんか他人行儀で嫌です』

「え、でも高1の弟が姉の友達を下の名前で呼ぶのってハードル高……」

『じゃなきゃ返事しません。一生』

「一生⁉︎」

 

 くっ、それは流石に嫌だ……。いや、流石にじゃなくても嫌だ。

 それに、俺も文香にいきなり鷹宮くんなんて呼ばれたらショックだろうし………。

 

「分かった、文香ちゃんで良い?」

『ちゃんっ……⁉︎あっ、新しい、ですね……。えへへっ』

「……少し恥ずかしいなこれ」

『………こっ、これからそう呼んでくれても良いんですよ……?』

「………考えとくよ」

「ねぇ、いちゃついてないでさっさとしてくんない?」

 

 速水さんのイラついた声が聞こえたので、軌道修正した。ていうか、文香の声はこの人に聞こえてないよね?どこまで察しが良いんだよ。

 

「でさ、図書館までの道のりを教えてくんない?」

『………でしたら、問題ありません。こうして話してる間に、千秋くんの声を頼りに今、移動してますから』

「えっ?」

 

 直後、速水さんが驚いたような顔をして俺の後ろを見ていた。えっ、と思って後ろを振り返ると、頬をムニッと突かれた。

 

「………みーつけた♪」

 

 …………ちょっと怖いんだけど。この人なんなの?ある意味絶対音感以上に異常だわ。

 

「………こんにちは。千秋くん。奏さん」

「こ、こんにちは、文香。何で私たちの場所が分かったの?」

「……なんでって……声でですよ?」

「はっ?」

「んっ?」

「よし、文香。見学させて」

 

 話をそらすと文香は微笑みながら「はい♪」と答えた。なんか機嫌良いな。どうしたのこの子。

 俺と同じことを考えていたのか、速水さんが文香に聞いた。

 

「ふ、文香?何か、機嫌良いわね」

「………はい。千秋くんや奏さんと同じ校舎内を歩けるなんて思ってませんでしたから」

「………私も?」

「………当たり前じゃないですか。奏さんは、私の大切なお友達ですから」

「「ふ、文香………」」

 

 速水さんだけでなく、俺までキュンッとしてしまった。気が付けば、二人で文香の頭を撫でていた。

 

「っ?な、なんですか?何で二人して頭を撫でるんですか?」

「「いや、良い子で可愛くてつい………」」

「………私が一番年上なのですが………」

 

 文香の後に続き、学校内を歩いた。文香に見えないように島村さんと三村さんに現在位置を連絡し、とりあえず廊下を歩き回った。文香が大学の冊子を手に取った。

 

「………ここを見てください。今、歩いてるのが本校舎で一号館です」

「あ、いや説明はいいよ。紙だけちょうだい」

「へっ………?」

「ゲームやってるだけあってマップ把握は早いんだ俺」

「…………」

 

 俺の役目は文香をうまく誘導して、島村さんと三村さんが追ってる面子と鉢合わせさせないことだ。それ以外なら何をしても問題ない。

 ………でも、何故か文香は不機嫌そうにしている。

 

「………えっ、なんで怒ってるのん?」

「………千秋くんを案内できると思っていたのですが……」

「……………」

 

 そんな顔されたら、頼る他無くなるじゃないですか………。

 

「………ねぇ、やっぱり私いると邪魔じゃない?」

「奏お姉ちゃん、俺、姉ちゃんと一緒に学校見廻りたいナ☆」

「分かったから気持ち悪いその口調やめなさい」

「っ!い、いくら奏さんでも千秋くんのお姉ちゃんの座は渡しませんよ!」

「………彼女じゃないのね」

 

 なんかグダグダになって来たな。まぁ、もう何でも良いけど。しかし、マジで島村さんと三村さんには感謝しないとなぁ。多分、ストーキングしてる気分で良い気はしてないだろうし。

 

 島村卯月[演劇部捜索隊]『すみませーん、見つかっちゃいましたー』

 三村かな子[演劇部捜索隊]『美味しいから大丈夫だよ』

 

 わけのわからない文章に、俺はため息をついた後、速水さんの耳元で呟いた。

 

「速水さ……姉ちゃん、ここよろしく」

「えっ?ちょっ、待ちなさ」

 

 返事を聞かずに廊下を走り出した。食堂の位置は把握してる。

 

 ×××

 

 食堂から男達に囲まれてる連中から島村さんと三村さんを連れ出した。今は中庭のベンチに座り込んでいる。

 

「………ここまでくれば平気だろ……」

「ご、ごめんね……。鷹宮くん………」

「すみません、私の所為で」

「いや、頼んでる立場ですし、別に大丈夫です」

 

 それ以上に、必要な話を聞きたい。

 

「で、どうだった?どんな人だった?」

「良い人だったよ?」

 

 三村さんのそれは「どうでも良い人」なのか「都合の良い人」なのか……まぁ、どちらでも良いけど。

 

「何でも良い人だと?」

「さっき、ケーキを奢ってもらえたから、かな?」

「………良い人のハードル低いな」

「美味しかったから大丈夫だよ」

 

 ………つまり、女を見つけたら奢って自分の印象を良くしようとする、という事か。あまり良い奴らじゃないな。

 

「島村さんは?」

「良い人でしたよ?」

「お前らは天使かよ」

「て、天使だなんて……」

「えへへ………」

 

 皮肉のつもりだったんだがな………。

 

「そうじゃなくて、話した印象とか」

「話した感じは優しそうな人でした。……でもなんというか、私達と話す前の男友達といたときとは話し方が違いました」

 

 やはりか。まぁ、男なんてそんなもんだ。

 すると、言いづらいことなのか島村さんは俺の耳元に移動し、ボソッと言った。

 

「………それと、その……たまにですが、かな子ちゃんの……むっ、胸を、チラチラ見ていたような………」

「………なるほど、ありがと」

 

 理解した。これ以上は無理だな。

 

「分かった、ありがと。もう、二人とも大学を出た方が良い」

「ほえっ?なんで?」

「俺が介入したことで、情報収集されたと思われる可能性もあるから。ストーキングされてる可能性も考慮して、一応事務所を経由してから帰った方が良いよ」

「でも、そんなんで☆13武器を手に入れてくれるの……?」

「足りなきゃ、プリペイドカードでも良いよ」

「い、いやいやいや!良いよ別にそんな!」

 

 役に立った。とりあえず、やはりのその辺の男子大学生より下衆である事はよく分かった。それだけで十分だ。

 

「じゃあ、私達は帰るね」

「お疲れ様でした」

「ああ、本当にありがとう」

「でも、鷹宮くん」

「?」

 

 三村さんに声を掛けられた。さっきまでの幸せそうな顔とは違い、真面目な顔で言った。

 

「ちゃんと、文香さんを頼ってあげてね」

「?」

「文香さんも、多分それを望んでるから」

 

 そう言われてもな……。仮にも、これから文香が飲みに行こうとしてる男を調べてるなんて、文香には言えない。あーあ、なんというか……俺の方が文香より重いのかもしれないな。

 二人は出口に向かった。ホッと一息ついて、とりあえず文香と合流しようと思い、本校舎に入ると、ちょうど文香と速水さんと出会した。

 

「あっ」

「……見つけました」

 

 メチャクチャ怒られたけど、とりあえずトイレって言って誤魔化した。

 

 


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