初詣行くと出てる出店って何なんだろうな。
初詣。それは一年の平穏や安全を祈るために、年初めに神社を参拝する事である。
それは俺も毎年行ってはいるが、正直今まではそこまで好きな行事ではなかった。だって年初めだからって一々参拝する理由はないでしょう。なんでお参りなんだよ。平穏無事を祈るのも分からなくはないが、そんなもん行きたい奴だけが行って、行きたくない奴は家で大人しくさせろよ。なんで毎年毎年家族に付き合わなきゃいけねーんだよ。
………そう思っていた時期が俺にもありました。
「………はい、千秋くん。これからも、ご一緒に歩んで行きましょうね」
縁結びを文香に手渡された。………ああ、彼女との初詣は最高なんじゃ〜……。
文香と山○観音に来て、お参りを済ませてから文香がお守りを買いたいというので、買い物中である。
「ありがと」
お礼を言いながら、お守りを受け取った。紫色の派手なお守りをポケットにしまうと、文香も嬉しそうにそれを手元の巾着に入れた。ていうか、お祭りじゃないのになんで巾着持って来たのん?
「………千秋くんっ、おみくじ、おみくじ引きましょう!」
「りょ」
貯金箱みたいな箱に100円玉を2枚入れた。
「………はい、先どうぞ」
「……あっ、私の分も出してくれたのですか……?ありがとうございます」
「いやいや。家デートが多くてあまり彼氏らしいことしてあげられてないから、これくらいはね」
「………すみません。では」
おみくじの箱に手を突っ込んだ。どれを取るのか迷ってるのか、中を弄っていた。どれでも同じだっつの。
運命を感じたのか、SEED覚醒したように目を見開いて手を引き抜いた。
「………もう、僕達を、放っておいてくれぇええええ‼︎」
「文香、声大きい。恥ずかしい」
「……すみません」
本当にSEED覚醒してるのかよ。
「………どうぞ、千秋くん」
「開けないの?」
「……同時に開けたいので………」
そうですか、一々可愛いとか一々思ってたら俺が死んじゃうわ。
俺もおみくじを引いた。とりあえず、一番最初に手に触れた奴を引いておいた。
「……では、開けましょうか」
「よし、じゃあ」
「「せーのっ」」
わざわざ声を揃えてまで同時に開けた。俺は神様とかそんなもんは信じてないので、あまり信用はしてないのだが………あっ、中吉だ。何というか……可もなく不可もなくというか……つまらん奴だわ。
「文香、どうだった?」
「……………」
「文香?」
「………あっ、は、はいっ。なんでしょう?」
「どうだったん?」
「……あ、あまり良くありませんでしたねっ。まぁ、私はおみくじとか余り信じませんし、結んでしまいましょうっ」
どうやら、悪かったようだ。結ぶ暇に向かい、文香は背伸びして上の方に結ぼうとした。おそらく、上の方が神様に見えやすい、というどっかで聞いた迷信を実行してるのだろう。
おみくじとかは信じないのに、おみくじに関係する迷信は信じちゃう辺りがとても可愛らしい。とりあえず、背伸びしてる文香の肩に手を置いて落ち着かせると、手の中のおみくじを取った。
「俺がやるよ。なるべく、上の方にでしょ?」
「っ……。あ、ありがとう、ございます……」
こんな事で顔を赤くしちゃうふみふみ本当かわいい。
結び終えると、本堂を出て下り道を下った。しばらく歩くと、出店がたくさん並んでる場所に到着した。
「………ここは?」
「なんでか知らないけど、出店が出てる場所」
「……何故、出店が?」
「さぁ?まぁ、だるま売ってたり三本締めする店もあったり甘酒売ってる場所もあるから、ある意味では正月を祝ってんだろ」
「………な、なるほど」
まぁ、関係ない屋台もあるけどな………。
「何か食べたいものある?」
「………では、たこ焼きを」
「りょかい。買って来るから待ってて」
「………あっ、待ってっ」
「?」
「………その、一緒に、買いに行きませんか……?」
………何このかわいい生き物。あ、俺の彼女か。
俺が手を差し出すと、文香は手を繋いでたこ焼きの列に並んだ。購入し、二人で立ったまま食べ始めた。
「熱いから気をつけろよ」
「はっはふっ……」
「もう遅かったか………」
口の中ではふはふとたこ焼きを動かしながら、何とか嚙み潰して飲み込む文香。
その実に愛らしい食事シーンを見ながら、俺もたこ焼きに息を吹きかけて食べた。そんな俺を見て、文香は何かを思いついたような顔を浮かべた後、恥ずかしそうに言った。
「…………千秋くん」
「? 何?」
「そのっ………私の分も、ふーふーしてくれませんか?」
ふーふーって言い方可愛い。
「えっ、俺が?爪楊枝二本あるよ?」
「いえ、その……千秋くんの、吐息で……冷まして、欲しくて……」
………吐息とか言うなよ……。むしろ俺の熱は上がっちゃうだろ。
言われるがままたこ焼きに息を吹きかけ、文香に差し出した。あーんと口を開けて、たこ焼きを食べた。
「あっ、あふっはふっ……」
結局、熱かった。まぁ、そんな文香も可愛い。こういう何気ない一時に、何となく幸せを感じる。そうか、これが幸せというものか……。
たこ焼きを食べ終え、他に何か食べたい物を聞こうとした時だ。ガバッと後ろから腰の辺りを抱きつかれた。文香かと思ったが、目の前にいるし違う。誰だ?と後ろを見ると、見覚えのある金髪がニコニコ笑顔で俺を見ていた。
「千秋くん!久し振り!」
「…………げっ、莉嘉……」
チッ、やはり出会したか………。親戚と会う羽目になるとは思ってたけど、思ったより早かったな………。
「ちょっと、莉嘉。何処に………あれっ?千秋?」
「うわっ、美嘉姉まで……」
ピンク髪の城ヶ崎美嘉まで現れた。ふっ、まぁ良いさ。こういう時のためにちゃんと対策は考えてある。
「うわって何?新年の挨拶もないのー?」
「あけおめことよろ」
「うわ、テキトーだし……」
「悪い、今彼女といるんだ。空気読んで退散してくれる?」
「えっ……千秋に彼女………?嘘でしょ?」
「マジだから」
そう、城ヶ崎美嘉は最近の女子高生、その物って感じのするJKだ。つまり、恋人といると知れば必ず空気を読む。妹はアホ真っしぐらだが、姉の方は見た目よりしっかりしてる。
そう思ったのだが、美嘉姉は割とマジで心配そうな顔で俺を見上げた。
「………大丈夫?病気なの?」
「いやマジだってば。疑うなら見せてやっても良いが……絶対に声は上げるなよ」
「う、うん。でも、違ったら病院に連れて行くからね?」
どこまで疑ってんだこの野郎。まぁ良いさ。文香を見せて、サインでも書いてもらって二人を黙らせればこの件は片付く。城ヶ崎姉妹はやけにアイドルの事情に詳しいから、おそらく超がつく程、アイドルのファンなんだろうし。
その完璧な計画を実行するために、文香をチラッと見た。察した文香は、少し不機嫌そうながらも俺の前に出て礼儀正しく頭を下げた。
「………初めまして。千秋くんとお付き合いさせていただいてます。鷺沢文香と言います。よろし……」
「えっ?文香ちゃん?」
「えっ?」
「えっ?」
女の子三人揃って「えっ?」という声が漏れた。何事かと思い顔を挙げると、文香が「あっ」と声を漏らした。
「………美嘉さんと、莉嘉ちゃん……?」
「えっ?」
今度は俺から声が漏れた。何、知り合いなの?
で、三人はジロリと俺を睨んだ。
「で、千秋?」
「どういう事なのか」
「……説明していただけますか?」
おい待て。なんで俺が睨まれてんの?むしろ説明して欲しいのは俺の方なんだが………。
「………あの、説明するので睨まないでくれませんか……?」
とりあえず懇願すると、三人はなんとか表情筋を緩めてくれた。
で、話し合いの結果、親戚である城ヶ崎姉妹はアイドルであることがわかった。俺の周りにはアイドルしかいねえのかよ、と思う所だが、もう慣れたしツッコミは入れないでおく。
「………ふーん?千秋と文香ちゃんがねぇ?」
「ねー!なんか意外だよねー。千秋くんとか絶対生涯独身だと思ってたもん!」
「莉嘉、謝るか今年のお年玉全部俺にパクられるか選べ」
「わっ、謝るからカツアゲはやめて!」
カツアゲじゃねぇ、教育だ。
「ま、そーゆー事なら私達は退散しようかな。行くよ、莉嘉」
「えー!久々に千秋くんと会ったのにー!」
「今度遊んでやるから」
「本当にっ?じゃあ、またね!千秋くん!」
嵐のような姉妹は立ち去り、俺と文香は取り残された。まぁ、何とか二人きりになれたな。予定とは違うが上出来だ。
「よし、じゃあ俺達も………」
「…………」
………やっぱり不機嫌になってる文香ちゃんでした。
「………あー、文香。あいつらは普通に親戚なだけで……」
「いえ、別に怒ってません」
その顔で何を言ってんだよ………。
呆れてると、そんな俺の表情を読み取ってか、文香がため息をついて呟いた。
「………本当に怒ってはないんです。私が勝手に、可愛いアイドルの知り合いがとうとう、親族にまで食い込んでる千秋くんを見て、これからも苦労しそうだと思っただけですから……」
「………なんかごめん」
「………いえ、ですから怒ってません」
………でもなんか罪悪感が……。あれ?俺、自分の家族以外はマジで知り合いアイドルなんじゃねぇか?
「ま、まぁ、それより出店回ろう。他に食べたいものは?」
「………たい焼きと豚汁と焼きそば」
ガッツリ行くなーこの人………。
引き続き、文香と腕を組んで列に並んだ。
×××
文香の家に帰って来た。寝室で文香が着替えてる間に、俺はぬくぬくと炬燵に入った。年明けのテレビなんてどうせロクなもんやってないし、アニメでも良いかな。
文香の家のプレ4を弄ってると、文香が着替え終わったのか戻って来た。俺の隣に文香は座り、炬燵に入った。
「………ふぅ、暖かいです」
………さっきから感じてたけど、女の子って胸だけじゃなく全体的に柔らかいよなぁ。
「………千秋くん、えっちな目をしてますよ?」
「あ、いやっ……」
「………そんなにくっ付きたいなら、もっとくっ付いちゃいます」
「………もしかして、自分がくっ付きたいだけ?」
「………はい」
さらに体重をかけて来る文香。クッソー、誘惑して来るなー。襲わないように理性を保たないと………。
「……そういえばさ、文香」
「? なんですか?」
「成人式の飲みにいる男ってどんな奴?」
「………気になるんですか?」
「まぁね」
「………ふふ、ヤキモチですか?」
「そんなんじゃないって」
ただ、どんな奴が参加するか知りたいだけだ。ヤキモチかもしれないが、それ以上に警戒してる。文香の酒の弱さを知ってるから。もし、お持ち帰りされるようなことがあったら危険だからな。
「………千秋くん、私の演劇を見ていたのですよね?」
「ああ。あれなら見たよ」
「………その時の演劇部の皆さんです」
ふむ、あの時のか………。演劇部、か……。
「おk」
「………何を考えてるのですか?」
「別に?大したことじゃないよ」
「…………怪しい」
「えっ」
「………教えなさい」
睨まれたので、目を逸らした。目は逸らしてるのに、文香から疑いの視線がガンガン突き刺さる。くっ、仕方ない。かくなる上は……!
「ちょっと、千秋くんんっ⁉︎」
「んっ……」
キスした。ぐぐぐっと押し付け、口を離してとりあえずカッコつけて言ってみた。
「………今年1発目」
「っ………!こ、こんなので私は誤魔化され……んんっ!」
さらに文香の首筋を噛んだ。噛みながら、とりあえず速水さんか三村さんあたりに協力を仰ぐことに決めた。